胃カメラ(内視鏡検査)では、その名の通り胃はもちろん、食道や十二指腸といった臓器まで観察ができます。従来のバリウム検査では発見しづらい細かな異常も捉えられます。さらに、胃カメラを用いると、生検(病変部からの組織採取)が行えるため、様々な病気の早期発見や正確な診断に非常に有効です。早期がんの場合、症状がほとんど現れないことが多いため、胃カメラによる検査が重要となります。
今回は胃カメラでわかる病気について解説します。
胃
ピロリ菌感染
ピロリ菌は、後にも紹介するさまざまな病気の原因となります。
ピロリ菌は、免疫力がまだ弱い幼少期に感染すると考えられています。感染していると、徐々に慢性胃炎を経て萎縮性胃炎へと進行し、最終的には胃がんに至る可能性があるとされています。ピロリ菌感染は、早期の除菌治療を受けることで、これらのリスクを低減できるだけでなく、自分の子どもへの感染拡大も防ぐことが可能です。
なお、ピロリ菌検査が保険適用になるのは、胃カメラ検査(内視鏡検査)で慢性胃炎や胃潰瘍と診断された場合のみです。
胃がん
日本における胃がんの発症率は、国際的に見ても高い水準にあります。その大部分はピロリ菌による慢性胃炎が原因です。慢性胃炎を早期に検出し、ピロリ菌を除去することで、胃がんのリスクを低減することが期待できます。さらに、早期の胃がんであれば、内視鏡を用いた治療によって切除できるようになっています。胃がんは無症状で進行することがほとんどです。早期発見が重要になるので、以下に当てはまる方は定期的に内視鏡検査を受けるようにしましょう。
- ・ピロリ菌感染歴がある
- ・胃がんになった家族がいる
- ・慢性胃炎の診断を受けた
急性胃炎
みぞおちの痛みや吐き気といった症状がある場合、急性胃炎の疑いがあります。原因は過度な飲酒、痛み止めや抗菌薬の服用、ストレスなどさまざまです。早期に検査と治療をおこなえば数日で症状は改善されます。
慢性胃炎
慢性胃炎は、継続的な胃の痛みや不快感、さらには胃粘膜の赤み、萎縮、びらん(ただれ)といった症状が特徴です。これらの状態は、十二指腸潰瘍や胃がんへと進行する可能性もあります。
慢性胃炎の主な原因はピロリ菌の感染です。ピロリ菌に感染していると、胃の粘膜が通常よりも萎縮してしまうことが多いです。胃の内視鏡検査は、このような胃粘膜の萎縮やピロリ菌の検出に役立ち、診断と治療の重要な手段となります。
胃潰瘍
食事に発生するみぞおちの痛みは、胃潰瘍の方の2/3以上に見られる主な症状です。加えて、お腹の張り、胸焼け、ゲップなどの不快な症状が伴うこともあります。こちらもピロリ菌の感染が原因であることがほとんどで、潰瘍患者の約70%以上が感染しているとされています。そのため、ピロリ菌の除菌治療が有効です。また、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の使用や喫煙も潰瘍の原因となることがあります。
H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害剤のように胃酸分泌を抑える薬によって潰瘍が治まることはありますが、これらを中止すると再発の可能性が高くなるため、薬物治療だけに依存することは推奨されません。ピロリ菌の除菌治療であれば、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発率が大幅に低下するため、胃潰瘍の効果的な治療法とされています。
胃ポリープ
胃ポリープには、「胃底腺ポリープ」「過形成性ポリープ」「腫瘍性ポリープ」があります。胃のポリープは、大腸ポリープと比べて内視鏡による切除が必要ない場合が多いですが、経過観察のために胃カメラによる検査が頻繁に行われます。
胃底腺ポリープ
胃底腺ポリープはピロリ菌に感染していない通常健康な胃を持つ人に見られることが多いポリープです。リスクは比較的低く、切除や経過観察の必要がないこともあります。
形成性ポリープ
発生頻度が2%と比較的低いものの、粘膜に強い炎症を示すことが特徴です。このタイプは自然消失しないことが多く、約1.3〜3%の割合でがん化する可能性があるとされています。経過観察中にサイズが顕著に増大していたり、出血や貧血のリスクがある場合には切除が検討されます。
腫瘍性ポリープ
胃腺腫は特に高齢の男性に多く見られ、男女比はおおよそ4:1です。このタイプのポリープは通常、萎縮した粘膜に発生することが多いです。サイズが2cm以上になるとがん化のリスクが高まるため、内視鏡を使用した切除治療が推奨されます。
胃アニサキス
アニサキスという寄生虫が寄生した魚(サバ、イカ、アジ、サンマなど)を生で食べることで感染するものです。感染した場合、数時間で激しい腹痛や吐き気・嘔吐といった症状に襲われます。一定間隔で腹痛を繰り返すのが特徴です。内視鏡検査によりアニサキスが見つかったら、そのまま摘出できます。生魚を食べた後に胃痛を感じたら、専門の内視鏡医に相談してください。
機能性胃腸症(機能性ディスペプシア)
胃腸炎のような症状が見られるものの、実際には胃腸の内部に炎症が存在しない場合があります。以前はこれらの症状も一般的な胃腸炎に含まれていましたが、現在では機能性胃腸症として別個に分類されており、通常の胃腸炎と区別されています。症状には、胃もたれ、すぐお腹がいっぱいになる、みぞおちの痛みなどがあります。
機能性胃腸症の具体的な発症要因は未だ特定されていませんが、精神的ストレス、過労、生活リズムの乱れが主な原因とされています。胃腸は外部からのストレスに特に影響を受けやすい臓器です。日本人は家庭や職場でのストレスにより、機能性胃腸症になりやすい傾向があるとされています。
食道
食道がん
食道がんは60代〜70代の男性に多く見られ、中でも長年飲酒や喫煙をしてきた人に多いとされています。初期段階では症状がほとんどなく、進行するにつれて食べ物が飲み込みにくくなる感覚、背中の痛み、体重の減少などの症状が現れます。胃がんと同様に、症状が出る前に発見することが治療の鍵です。
症状が現れる前の早期発見には、年に1-2回の定期検診が重要です。定期検診により早期に発見されたがんは、内視鏡を用いた切除で治療することができ、大半は完治します。特に喫煙や飲酒の習慣がある方はリスクが高いため、定期的な内視鏡検査を受けることが推奨されます。
食道胃接合部がん
食道胃接合部がんは、食道と胃の境界近く、上下2cm以内にがん中心が位置するものです。以前は食道がんか胃がんのどちらかに分類されていましたが、その発生地点とリンパ節への転移パターンの特性から、最近では独立した疾患として認識されるようになっています。欧米では以前から一般的で、日本でも増加傾向にあります。
逆流性食道炎
胃液が胃から食道へと逆流し、食道の内壁に炎症を引き起こす状態を指します。この症状には胸焼け、ゲップ、酸っぱいまたは苦い味を感じる呑酸、咳、喉の違和感などがあります。生活習慣が原因で繰り返し発生しやすく、炎症が長引くと食道がんのリスクが高まる可能性があるため、早めの内視鏡検査と適切な治療が必要です。
バレット食道
逆流性食道炎の炎症が続くことにより、食道の内壁が胃の粘膜のように変化してしまう状況を指します。この状態は食道がんのリスクが高まっているため、適切な治療とともに定期的な内視鏡検査が必要です。
食道静脈瘤
この病気は、長い間炎症を持っている肝臓が硬くなる(肝硬変)と起こります。肝硬変のため、肝臓に血液がうまく流れなくなり、余った血液が食道に流れて、血管が膨らんで静脈瘤(血管のこぶ)を作ります。このこぶが破裂すると命にも関わるので、早期発見とすみやかな治療が重要です。ほとんどの場合、内視鏡を使った治療が行われます。静脈瘤が見つかれば、定期的に肝臓の状態をチェックし、胃カメラ検査も重要になります。
十二指腸
十二指腸は、小腸の最初の部分であり、胃から続く消化管の一部です。その名前は、その長さが約12指幅(約25〜30cm)であることに由来しています。胃で消化された食物を、すい液や胆汁などの消化液と混ぜ合わせ、その後空腸へと運ぶはたらきをしています。
十二指腸がん
十二指腸がんは比較的珍しく、発生する原因はいまだ明確にはわかっていません。多くの場合、良性の腺腫ががん化するとされています。初期段階ではほとんど症状がありませんが、がんが進行すると腹痛、吐き気、嘔吐、体重減少、貧血などの症状が表れることがあります。十二指腸の粘膜が非常に薄く、胃や大腸の手術よりも複雑で難易度が高いため、治療には開腹手術が必要とされることが多いです。
十二指腸潰瘍
十二指腸潰瘍は、十二指腸の内壁にできる潰瘍性の疾患です。この潰瘍は特に胃に近い部位でよく発生します。胃潰瘍と異なる特徴としては、十二指腸は胃よりも筋肉層が薄いため、潰瘍が深く進行しやすく、出血や穿孔(穴が開くこと)のリスクが高いことです。ほとんどの場合、原因はピロリ菌の感染であり、若い世代にも多くなってきています。治療は主に胃酸を抑える薬の服用とピロリ菌の除菌治療という手段がとられます。
のど
咽頭がん
咽頭は三つの部分に分かれています。上部は鼻の奥に位置する上咽頭で空気のみが通る場所、中部は口の奥にある中咽頭で空気と食物が共に通る場所、そして下部は食道へと続く下咽頭で食物が通る場所です。中咽頭には咽頭扁桃、口蓋扁桃、舌根、そして口蓋垂が含まれています。咽頭がんは、発生する位置に応じて上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんと分類されます。
進行した咽頭がんの治療には、多くの場合、広範囲の手術や放射線治療が必要となり、発声や食事に困難を引き起こす可能性があります。しかし、早期に発見された場合は、内視鏡を用いた切除手術で完治が望め、発声や食事への影響は最小限に抑えられます。
まとめ
胃カメラでわかる病気を紹介いたしました。自覚症状がなく進行する病気もあるため、定期的に胃カメラ(内視鏡検査)を受けることが重要です。特に、40代は胃がんの発症率が高くなります。自分は健康だから問題ないと思っている方でも、何か見つかる可能性がありますので、40歳を過ぎたら一度検査を受けてみてください。