食道裂孔ヘルニアとは?

ヘルニアは、臓器や組織が正常な位置から脱出した状態を指します。食道裂孔ヘルニアは、本来お腹の中にあるべき胃の一部が、横隔膜にある食道裂孔(食道が通る穴)を通って胸部に飛び出した状態です。食道裂孔ヘルニアになると胃の内容物が食道へ逆流しやすくなり(胃食道逆流症や逆流性食道炎)、様々な不快症状を引き起こします。
「胸焼けがする」「食後に胸が痛む」「ゲップがよく出る」といった症状でお悩みの方は、箕面市・箕面萱野駅のながい内科循環器内科クリニックへお気軽にご相談ください。
食道裂孔ヘルニアのタイプと特徴
滑脱型
食道裂孔ヘルニアの中では特に多いタイプで、食道と胃の接合部が横隔膜よりも上に移動した状態です。胃の上部が裂孔を通じて上下に滑るように動くことが特徴で、特に横になったり前かがみになったりすると胃の内容物が食道に逆流しやすくなります。逆流性食道炎を伴うことが多く、胸焼けや呑酸(酸っぱいものが上がってくる感覚)といった症状が主体です。
傍食道型
食道と胃の接合部は正常な位置にありますが、胃の一部だけが横隔膜の裂孔の横から飛び出したタイプです。比較的まれですが、飛び出した胃の部分が締め付けられて血流が悪くなり、激しい痛みを引き起こすことがあります。この状態を嵌頓(かんとん)と言い、緊急手術が必要になることが多いです。
混合型
滑脱型と傍食道型の特徴を併せ持つタイプで、食道胃接合部が横隔膜の上に位置し、さらに胃の一部も横から飛び出している状態です。両方の症状が現れることがあり、症状は複雑になることがあります。治療は症状の程度や合併症の有無により決定されます。
食道裂孔ヘルニアの原因
加齢による筋力低下
年齢を重ねるにつれて、横隔膜の筋肉や周囲の靭帯が弱くなります。これにより食道裂孔が緩み、胃が上方へ移動しやすくなります。
腹圧の上昇
お腹の中の圧力(腹圧)が上昇する状態が続くと、胃が上に押し上げられて食道裂孔ヘルニアの原因となります。以下のような原因が挙げられます。
- 肥満
- 妊娠
- 慢性的な咳(喘息や慢性気管支炎など)
- 重い物の持ち上げ
- 慢性的な便秘(排便時のいきみ) など
姿勢
前かがみの姿勢や猫背が習慣になっていると、お腹が圧迫されて胃が上方に押し出されやすくなります。特にデスクワークが長時間続く方や、スマートフォンを長時間使用する方は、若い方でも食道裂孔ヘルニアのリスクが高まります。
先天的な要因
生まれつき食道裂孔が大きい方や横隔膜の構造に異常がある方は、食道裂孔ヘルニアが発生しやすい傾向があります。
これらの要因が単独、または複数組み合わさることで、食道裂孔ヘルニアのリスクが高まります。
食道裂孔ヘルニアの症状
食道裂孔ヘルニアの症状は個人差が大きく、無症状の方もいれば、生活の質を著しく低下させるほどの症状がある方もいます。主な症状には以下が挙げられます。
逆流性食道炎による症状
胃の内容物(胃酸や消化酵素)が食道に逆流することで起こる症状です。
- 胸焼け(みぞおちや胸の奥のほてりや焼けるような感覚)
- 呑酸(酸っぱい液体が口まで上がってくる感覚)
- のどの違和感や痛み、咽頭炎
- 咳(特に夜間に悪化)
- 声のかすれ
- 食後のお腹の張り(膨満感)
- 胸部圧迫感、胸痛
- 食べ物がつかえる感じ(特に大きなものを食べた時)
- ゲップの増加
- 飲み込みにくさ(嚥下困難)
- 嘔吐 など
重症例での症状
大きなヘルニアや傍食道型のヘルニアでは、以下のような症状が現れることもあります。
- 呼吸困難(飛び出した胃が肺を圧迫)
- 胸痛(特に食後やあおむけに寝た時)
- 心拍数の増加や不整脈(心臓への圧迫)
- 貧血(長期の出血による)
- 飛び出した胃が嵌頓を起こした場合の激痛 など
食道裂孔ヘルニアの検査と診断
胃内視鏡検査(胃カメラ検査)
口や鼻から細い内視鏡を挿入し、食道や胃の内側を直接観察する検査です。食道裂孔の開き具合やヘルニアの程度、逆流性食道炎の有無などを確認できます。また、他の疾患(食道がんや胃がんなど)との鑑別も可能です。
CT検査・MRI検査
体の断面を画像化する検査で、胃と横隔膜の関係やヘルニアの程度をより詳細に評価できます。特に大きなヘルニアや複雑なヘルニアの評価に有用です。また、周囲の臓器(肺や心臓など)への影響も確認できます。
※提携先医療機関と連携して実施します
食道裂孔ヘルニアの治療
生活習慣の改善
軽度から中等度の症状の場合、以下のような生活習慣の改善を行って胃酸の逆流を防ぎます。この辺りは逆流性食道炎の治療とも通じる点が多いです。
- 少量ずつ、よく噛んで食べる
- 食後2~3時間は横にならない
- 就寝前3時間は食事を控える
- 脂っこい食事、香辛料の強い食品、酸味の強い食品を控える
- カフェイン、アルコール、炭酸飲料を控える
- 肥満の方は適正体重を目指す
- 禁煙
- ウエストをきつく締める服やベルトを避ける
- ベッドの頭側を少し高くする
- 適度な運動を心がける など
薬物療法
症状が改善しない場合や、食道の炎症を伴う場合には、以下のような薬物療法も検討します。
- プロトンポンプ阻害薬(PPI)、H2受容体拮抗薬:胃酸の分泌を抑える薬
- 制酸薬:胃酸を中和する薬
- 消化管運動改善薬:食道や胃の動きを改善する薬
- 粘膜保護薬:食道の粘膜を保護する薬 など
外科的治療(手術)
以下のような場合は、手術も検討します。
- 生活習慣の改善や薬物療法で症状が改善しない
- 大きなヘルニア(特に傍食道型)
- 出血、潰瘍などが見られる
- 重篤な呼吸器症状を伴う など
手術では主に以下の処置が行われます(腹腔鏡手術となることが多いです)。手術のメリットは症状の大幅な改善が期待できることですが、全ての方に適応があるわけではなく、年齢や全身状態、ヘルニアのタイプなどを考慮して決定されます。
- 胸部に飛び出した胃を正常な位置に戻す
- 横隔膜の裂孔を縫い縮める
- 逆流防止のための処置(噴門形成術)
※提携先医療機関と連携して実施します